暮らすがえジャーナル

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つっぱりボーイフレンド最終話:「私の暮らしのそばに。」

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―――2025年2月8日(土)

自分の部屋で、私は電話をかけていた。


「私、本当にちゃんと思いを伝えられるかな??」



『そんなことで今更電話してきたの!?』

朝早くから呼び出したからか、スマートフォン越しの声は少し気だるそうだ。
ぐるぐるとバネが回る音が聞こえる。


「だって・・・不安で・・・。」

『まったく・・・。どんな結果になったとしても、思いを伝えたいってことはあんたのなかで決まってんでしょ?』

「そうだけど・・・。」


『じゃあ、私はこれ以上手助けしないわよ。思いを伝えるなら今日がいいって教えてあげたでしょ?』


『これ以上世話を焼かせるんじゃないわよ。』と面倒くさそうにしているが、こうして背中を押してくれる、尊敬する友人だ。

「そうだよね・・・!私頑張る!ごめんね、こんな時間に。




 ありがとう、ラブリ子。※」

※LABRICO(ラブリコ)は規格木材などを組み合わせて作るDIY収納パーツです。

スマートフォンの通話を切り、私は部屋から飛び出した。



彼に、会いに行かなきゃ。






つっぱり棒は”よく落ちる”っていうけど、そうじゃない。

私が、つっぱり棒のことを良く知らなかったんだ。


決められた耐荷重があること。

バネ式のつっぱり棒はぐっと押し込んでつけること。

しっかりした下地のある場所に取り付けること。

ジャッキ式つっぱり棒のネジは穴があくまでしっかりしめること。


そして、正しく使えば、つっぱり棒はその力を遺憾なく発揮する。


美しいデザイン。

スキマで活躍する、小さくてもしっかりした耐荷重。

耐荷重がかかればかかるほど、つっぱる構造。

暮らしに馴染む、おしゃれな黒。


一括りに”つっぱり棒”といっても、サイズも特徴も多種多様で

いろんな場面で、いろんな役割で、私たちに寄り添ってくれるんだ。


「私、知らなかった、つっぱり棒がこんなかけがえのない、存在だったなんて。」



つっぱり棒は”よく落ちる”って言うけど、そうじゃない。

私が、つっぱり棒に落ちていた。



中でも、私が、ずっと一緒に居たいと思ったのは―――

待ち合わせは、学校の近くの河川敷。

からっと晴れた空は、私の気持ちを表しているようだ。


遠くから、一本のシルエットが見える。


「ごめんなさい。お休みの日に急に呼び出して。」


私が、思いを伝えたかった人は―――――

「来てくれてありがとうございます、HGP先輩。」

まっすぐなシルエットが、静かにこちらを向いている。

「えっと・・・その・・・。」

どうしよう、昨日の夜あれだけ考えたのに言葉が出てこない。

「えっと、その、私、まだまだ頼りないんですけど、それでも、あの…!」


「頼りなくなんかないぞ。」


しどろもどろな私をさえぎるように、まっすぐにHGP先輩の声が響く。


「え・・・?」

「言ったろ?ちゃんとした下地の元じゃないと俺は踏ん張れないって。それに、たとえお前がどれだけ頼りなくても、俺のハイテンションカム機構で全部支えられる。」


「HGP先輩・・・。」

「だから・・・。」


HGP先輩のキャップが、頷くようにカチャっと動いた。



「お前のこと、丸ごと全部俺に任せな。」

晴わたる空に、HGPの真っ白な身体がキラキラと反射する。


「俺がずっと、お前の側で寄り添っていてもいいか?」

「はいっ、私も先輩のこと、これからも支えたいです。」


そっとHGP先輩の身体に触れる。

私を支えてくれる、私に寄り添ってくれるつっぱり棒。


「なんだか・・・改めると、照れくさいですね。」


ガシャン!!

不意に力が抜けたのか、HGP先輩が地面に横たわる。



「え、ちょっと・・・!大丈夫ですか?」

「す、すまん。安心したせいか、力が抜けてしまった・・・。」

※つっぱり棒は設置後、乗せた荷物の重さによって長さ固定ねじやグリップが緩み、落下してしまう恐れがあります。設置後は定期的な点検をお願いします。

「ふふっ。私も、支えてもらうばっかりじゃなくて、支える側にならないとね。」



『突然現れる王子様より、ずっとあなたに寄り添ってくれる人の方が幸せになれるんじゃないかしら?現実はそんな人の方が頼りになるもんよ。』

お母さんのあの言葉がよみがえる。



私に、ずっと、寄り添ってくれる、頼りになるつっぱり棒。




これからも、私の暮らしの側に。




つっぱりボーイフレンド、END。