暮らすがえジャーナル
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■HGP(エイチジーピー)
平安伸銅高校3年生、あなたがマネージャーを務める部活の主将。
部員や顧問からも信頼される、いつも元気なみんなのリーダー。
自分に厳しく、日々の鍛錬を欠かさない。
あなたは憧れの先輩の力になれているのか不安だったが…?
「そろそろランニング終わるからドリンクお願い!」
「はいっ。」
先輩の指示で、準備しておいたドリンク入りのボトルをグラウンドまで運ぶ。
ウォーミングアップのランニングを終えた部員たちが続々とゴールにあつまってくる。
友達に誘われて入った陸上部のマネージャー。
ここで、部員のみんなと一緒にインターハイへの夢を追いかけている。
「よし!全員集合してくれー」
大きな声で全体に声をかけたのはHGP(エイチジーピー)先輩。
この部の部長で、みんなをまとめる先輩つっぱり棒だ。※
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「地区予選ももうすぐだ!!本番でしっかり結果が出せるように今こそ基礎練習もしっかりやっていこうな!!」
「「「はい!!」」」
「よし、じゃあ各自練習メニューに入ってくれ!!不安に思うことがあればいつでも声をかけてくれ!!」
HGP先輩の号令で部員たちが各々の練習に分かれていく。
先輩は競技の実力はピカイチ、いつも元気で、太陽のように皆をひっぱってくれるので、部員皆が信頼している。
(さすが、HGP先輩はかっこいいな・・・。)
「おー!ちょうどいいところにいた。」
練習のサポートに入ろうとしたところで、部室前に居た顧問の先生に声をかけられた。
「すまんが、この荷物を俺の車に運んでおいてくれないか?週末の遠征で使うんだ。」
顧問の足元には段ボール箱が2箱と紙袋がいくつか置いてある。
「はいっ!トランクに積んでおきますね。」
「ありがとう、カギは職員室の机に置いといてくれ。」
顧問の先生は私に鍵を手渡すと予定があるのか足早に去って行った。
・・・他のマネージャーは別の用事で忙しそう。
(まあ、一度に持っていけなくはないよね。)
両腕に紙袋を下げて、2段に重ねた段ボールを持ち上げる。
(ちょっと重いけど・・・っ、なんとか頑張れそう。)
駐車場に向かって歩き始めたとき、突然ひょいと荷物を取り上げられた。
「へ・・・?」
振り返るとHGP先輩が私の持っていた段ボールを軽々と持ち上げている。
「大丈夫かー?歩きながらふらふらしてたぞ!!」
「HGP先輩、いいですよ私持ちますよ!」
「はは!!これもトレーニングになるし気にすんな!!」
「むしろこんなに重たいものよく一人で持てたな!!選手より力あるんじゃないか?」とHGP先輩は大きなキャップをカチャカチャ動かしながら大きな声で笑う。
お言葉に甘えて一緒に駐車場まで荷物を運ぶ。
「地区予選ももうすぐですね。」
「ああ!!俺もそろそろ本番に合わせたトレーニングに変えていこうと思っているところだ!!」
「先輩はすごいです、朝練習も毎日来られてるんですよね?アイツは誰よりも練習して誰よりも部員のことを見てるって、顧問が言ってました。」
「はは!!俺を褒めても何もでてこないぞー?」
そう言って先輩は少し照れくさそうにグリップをくるくると回す。
「まあ、このチームみんなで全国に行きたいからな!!それに、俺自身はプレッシャーがあればあるほど頑張れるタイプだからな!!これくらい自分に課した方がいいんだ。※」
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「ま、そういう訳で、お前も頼りにしてるぞ!!」
すごいな先輩。私、マネージャーとして頼れるほど、先輩の役に立てているのかな・・・。
なんならこうして仕事も手伝ってもらっちゃったし・・・HGP先輩の言葉は嬉しかったけれど、少し自信も無くしてしまいそうだ。
次の日の朝―—―
「もー!またやっちゃった!」
昨日の夜、家に帰ってから部室に数学の教科書を忘れたことに気が付いた。
(1時間目から小テストがあるのに・・・!)
早めに学校に行って勉強するしかない、と早起きして部室に教科書を取りに来たのだ。
(朝練もまだ始まってないみたい・・・)
静かなグラウンドを通り抜けて部室のドアを開けると、HGP先輩が部室の隅で熱心にノートを確認していた。
物音に気付いたのか、HGP先輩がこちらの方を向く。
「ああ、お前か。おはよう!!どうしたんだー?」
「一時間目小テストなのに教科書忘れちゃって・・・HGP先輩もこんな早くにどうしたんですか?」
「ああ、昨日後輩から練習メニューの相談を受けてな!!そいつの練習記録を確認していたんだ!!」
誰よりも練習をして、チームのために誰よりも頑張る先輩。
「・・・・・・私、先輩のために、チームのためになれてますかね???」
不意に言葉が漏れた。
「急にどうしたんだ??」
「すみません。私、マネージャーなのに昨日も先輩に仕事手伝ってもらっちゃったし、もしかして先輩の足引っ張ってるんじゃないかなって・・・。」
(なんだか悔しくて、泣きたくないのに泣きそう・・・。)
頑張って涙をこらえていたら、いつもの元気な先輩の笑い声が聞こえた。
「ははは!!なんだ、朝からそんなことで悩んでたのか。」
「そんなことって・・・っ。」
「そんな風に思ったことなんて、一度もないぞ!!」
HGP先輩はこちらに近づき、不意にやさしい声でつぶやく。
「俺たちは、支えてくれる人がいるから競技に集中できるんだよ。このノートも、お前は練習の記録とるだけじゃなくて、いつも選手の様子まで丁寧に書いてまとめてくれてるだろ?すごく助かってるぞ。」
「ほ、ほんとですか・・・?」
「ああ、つっぱり棒も強度がある場所でしっかり支えてもらわないと、ちゃんとつっぱれないからな!!」
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(HGP先輩、そんなところまで見ていてくれたんだ・・・。)
そのことが嬉しくて、そして少し照れくさい。
「ありがとうございます・・・。」
「ん?どうした・・・顔が赤いぞ??」
「へっ!?」
急に、HGP先輩がさらに接近してきて、その大きなキャップを私のおでこにあてた。
ドキドキと高鳴る心臓。
「うーん、熱はないみたいだな!!テストがあるんだろ??無理しないようにな!!」
「は、はいっ!」
「よし、俺もそろそろ朝練始めるかな!!」
部室を出て、グラウンドまで一緒に歩く。
「部活も勉強も頑張ってお前はえらいな!!俺も頑張らないと!!」
HGP先輩はいつものようにからっとした声でキャップをカチャカチャさせる。
みんなを支える、強く突っ張るための大きなキャップ、荷重がかかればかかるほど、強くつっぱれる機構。
強くて、頼もしくて、私のことも認めてくれる。やっぱりかっこいい先輩だ。
(私、先輩のことをこれからも支えたい。)
「あの、HGP先輩。」
「うん?」
「私、これからもっともっと頑張りますね!!みんなと、全国に行きたいですし。
何より、先輩のこと、もっと支えていきたいなって思いました。」
突然、かちゃかちゃと音を立てていたHGP先輩のキャップの音がぴたりと止まる。
そのまま、ふいに私の顔のすぐ近く、部室棟の壁に向かってその大きなキャップがつっぱられた。
これって・・・壁ドン・・・??
「全国まで行って、ちゃんと結果を出してから、と思っているんだ。俺のハイテンションカム機構は、プレッシャーがあればあるほど強くなれるから。だから・・・。」
HGP先輩は私の耳元で静かに囁く。
「これ以上・・・俺を浮つかせないでくれ。」
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「え・・・///」
「いや・・・すまん、なんでもない。ほら!!早く教室にいって、勉強頑張れよ!!」
顔のすぐそばでぐるぐる回るグリップ、スタート線の文字がちらりと見えた。※
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誰も居ないグラウンドの、澄んだ空気が私と先輩の間を通り過ぎていく。
熱くなった頬は、まだ、冷めそうにない。