暮らすがえジャーナル

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つっぱりボーイフレンド第一話:RTJ編「キャパオーバー!?恋も荷物も耐荷重まで」

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■RTJ(アールティージェー)
平安伸銅高校2年生、あなたと同じクラス。
成績優秀、スポーツ万能な優等生。
大人しくて目立つタイプじゃないけれど、物腰柔らかで誰にでも優しく、生徒や先生から一目置かれる存在。
でも実は苦手なことがあって…??





大人になったら白馬の王子様が突然現れて、幸せにしてくれる。

子どもの頃にお母さんに読んでもらった絵本は、こう締めくくられていた。

『そうして、お姫様は王子様と二人で幸せに暮らしましたとさ。』

「私も大きくなったらこんな王子様と結婚したい!」
目を輝かせた私に、絵本を読んでくれたお母さんは苦笑しながら言う。

「確かにかっこいいけれど、突然現れる王子様より、ずっとあなたに寄り添ってくれる人の方が幸せになれるんじゃないかしら?現実はそんな人の方が頼りになるもんよ。」

”寄り添ってくれる人”か・・・幼い頃の私にはその意味が分からなかった。

私のことを本当に幸せにしてくれる人は・・・。


私は・・・。



―――――――――――――

「………い………おい、起きろ!!!」


「へっ!?ふぁい!!」


頭の上から降ってきた怒鳴り声に反応して慌てて起きると、そこは見慣れた教室だった。
担任の先生が英語の教科書を持ってにらんでいる。

「お前、俺の授業で寝るなんていい度胸だな。」

どうやら私は授業中に夢を見ていたらしい。

先生の深いため息と、クラスメイトのクスクスという笑い声が聞こえる。

「たっく・・・もういい、おい、RTJ(アールティ―ジェー)、代わりに読んで答えてやれ。」

「はい。」


後ろの席のRTJ君がすっと立ち上がり、きれいな声で教科書を読み上げた。

「He bought a shelf at a hardware store without really thinking about how big it would be, so the shelf ended up sticking out from the post and he would often hit his knee on it.
彼は、ホームセンターで目測で棚を買った。そのため、棚がはみ出てしまい、よく膝をぶつける。」

「その通り。この場合、主語がどれになるかというと・・・。」


先生は何事もなかったかのように解説を続け後ろの席に向かって歩いて行く。

RTJ君は成績優秀、勉強も運動もそつなくこなすクラスメイトのジャッキ式つっぱり棒だ。※
おとなしくて目立つタイプではないけれど、先生もみんなも信頼している。

勉強もそこそこ、こうしてしょっちゅう怒られている私とは大違い。

※RTJはランドリー、クローゼット、玄関とどこでも使える万能でベーシックなジャッキ式つっぱり棒です。
※ジャッキ式つっぱり棒とは二本のパイプを伸ばして長さ固定ネジで固定し、端にあるグリップを回して壁に圧力をかけて突っ張る仕組みのつっぱり棒です。

「じゃあ、まとめのプリント配るぞー。」

授業の後半、先生はプリントの束を前の席に順番に回していく。そして、こちらをにらみつけた。

「おい、お前はあとで職員室に来い。」

「えー!」

「えーじゃない!なんで呼ばれたかわかってんだろ!」

周りからどんまーい、とからかわれながら、回ってきたプリントを後ろに配る。

RTJ君は「ありがと。」とちょっとおかしそうに笑いながらプリントを受け取ってくれた。


ほんと、彼は私とは大違いだ。


放課後―――――――


先生は人使いが荒い。
職員室で30分ほど説教された上に、倉庫の整理までさせられた。

すでに日が傾き始め、廊下は真っ赤に染まっている。
今日は部活もないし、早く荷物をまとめて帰ろう・・・。


教室に戻ると、窓際の席に座っているRTJ君がいた。

「あれ、RTJ君まだいたんだ?」

「うん、今日は僕が日直だったら、日誌を書いていたんだ。」

まっすぐな姿勢で日誌に書き込みをしているRTJ君。
近寄って前の席で荷物をまとめる。

「というか、今日の英語の時間ごめんね・・・私のせいで先生に当てられちゃって。」

「ああ、気にしなくていいのに。」

「当てられたところもそんな難しいとこじゃなかったし。」と何事もなかったかのうようにRTJ君は言う。

「RTJ君はすごいよね、何でも完璧にこなしちゃって。」

「そんなことないよ。」

さらりと否定する声は優しく、でもどこか照れくさそうだ。

「いやいや、私なんか勉強もできないし今日みたいに先生にも怒られるしほんとダメダメだもん。」

自嘲気味に言うと、RTJ君は一瞬きょとんとしたように間を置いて、優しい声で言った。


「そんなことないよ。だって僕は、ずっと素敵な人だなって思ってるもん。」


「え・・・?」


予想外の言葉に、思わず目を見開いてしまう。

「いつも、笑顔で挨拶してくれるし。それに、プリントを後ろに回す時、プリントの方向を整えてから回してくれてるよね。
そういう細かいところまで気を遣ってくれるとこと、素敵だなと思ってたよ。つっぱり棒もキャップの方向が大事だからね。」

RTJ君はキャップをくるくると回しておどけてみせた。※

※ジャッキ式つっぱり棒はキャップの上下が決まっています。必ず長い方を下にして取り付けてください。

そっか、RTJ君はそんな風に細かい私の良いところ、見つけてくれてたんだ・・・。

「ふふ、ありがとう。先生に怒られてへこんでたけど、ちょっと元気でた。」

「それは良かった。」

ふと、RTJ君が書いている日誌に目をやる。

「あれ・・・RTJ君、それ、何??」

「あっ・・・。」

慌てて隠そうとしたけれど、時すでに遅し。日誌の片隅には何回も消しゴムで消した跡の上に、なんとも言えないような丸い生命体が描かれていた。

「これは・・・。」

「いや、自由欄の絵しりとりのコーナーさ、『ご』だったからゴリラを書いてみたんだけど・・・。」

「うーん、ゴリラには、見えないね・・・。」


心なしか夕日で赤く染まったRTJ君が、より赤くなった気がした。

「実は僕、絵が苦手なんだ・・・。」

恥ずかしそうにうつむくRTJ君。

「意外、RTJ君にも苦手な物があるんだね。」

「僕だってなんでもできるわけじゃないんだよ。耐荷重以上の荷物は持てないし、サイズの合わない場所では活躍できないんだ。」

※つっぱり棒にはそれぞれ決められた耐荷重があり、耐荷重以上の負荷は落下の原因となります。また、サイズの合わない場所ではご使用いただけません。

―――正直、君には知られたくなかったけどね・・・。


ぼそっと声が聞こえた気がしたけれど、グラウンドの運動部の声がかき消してしまう。

「ふふ、でも、なんか、安心した。」

「そう?」

「うん。なんかもっと親近感がわいたし、それに、それでも、RTJ君は凄いなって思うな、かっこいいよ。」


ガシャン!!


教室にRTJ君のパイプがスライドする音が聞こえた。


「参ったな・・・耐荷重オーバーだ。」

「え?」

「いや・・・なんでもない。」


「引き止めてごめんね。」とRTJ君は頭のキャップをふらふら揺らす。そしてふと、視線をあげた。

「あれ、前髪になんかついてるよ?」

「え?」

私が驚いて顔を上げると、RTJ君がそっとこちらに近づいてくる。

ドキッとする心臓の音を感じていると、目の前に伸びてきたキャップの先が、ふんわりと前髪に触れた。


「カーテンリング、前髪についてたよ。」※

※RTJはカーテンリングと組み合わせることで簡単に間仕切りカーテン作ることができます(画像はイメージ)

RTJ君はそう静かに言って、カーテンリングを自分にひっかけ、そのまま私の背後の壁につっぱり、至近距離で私を見つめてくる。


これって・・・壁ドン・・・?


RTJ君との距離が近くてドキドキする。


あれ・・・それにしても、ちゃんと見たことなかったけど、RTJ君って・・・。
マットな質感に、キャップやネジまで繊細に作られていて・・・。


よく見たら、ものすごく洗練されてる。


こんなにきれいだなんて、今まで気づかなかった・・・。

「あれ、どうしたの?顔真っ赤だよ?」

「へ、いや、ごめん・・・///さっきの倉庫整理の時についたのかな・・・!ありがとう!」


慌てて誤魔化すようにうつむく私。
2人きりの教室に、私とRTJ君の影がのびていくのが見えた。


どうしよう、なんだか急にドキドキして、今まで通りRTJ君のことが見れないよ・・・。