暮らすがえジャーナル

.
■SMP(エスエムピー)
平安伸銅高校1年生、図書委員の後輩。
手先が器用で細かい作業が得意。
いつも会うと手作りのお菓子をくれる。
小柄でかわいらしく、あなたにとっては弟のような存在だったのに…?
「これ貸し出しお願いしまーす。」
「はい!お預かりしますね!」
カウンターに差し出された本のバーコードを読み込む。
週に1度の図書委員会の仕事も、2年生になると結構慣れてきた。
「2週間後が期限なのでそれまでに返却をお願いしますね。」
「はーい。」
とはいえ、お昼休みに来る生徒はそんなにいないから、数件の貸し出しを対応しながら、あとはカウンターの裏でのんびりお昼ご飯を食べているのだけれど。
友達とわいわいするお昼休みも好きだけど、このまったりした時間も結構お気に入り。
ーーーーートントン。
生徒を見送って一息ついたところで、後から背中をつつかれる。
「せーーーーんぱいっ!」
振り返るとSMP(エスエムピー)君が身体につけたS字フックをくるくる回していた。※

「わ!SMP君、お疲れ様!」
「お疲れ様です。今日は僕と先輩がペアですねーよろしくお願いします♪」
「よろしくね!」
SMP君は1年下の後輩つっぱり棒。
時々こうして図書委員会でペアになる。ちっこくて人懐っこい可愛い後輩だ。
「誰かきたら僕が対応するので、先輩は奥でゆっくりお昼ごはん食べてください。」
「え、いいの?SMP君こそ、ご飯もう食べたの?」
「はい!僕はそういうの大丈夫なんで。あ、これもよかったらどうぞっ。」
そう言うとSMP君はS字フックに掛かっていた小さな袋を差し出した。
「昨日焼いたクッキーです、デザートに食べてください。」
「わあ!ありがとー!SMP君のお菓子いつも美味しいから楽しみだなあ。」
SMP君はこうして時々手作りのお菓子を差し入れてくれる。お菓子作りや手芸が趣味らしい。
「今回はアイシングに初めて挑戦したんです♪」
袋の中には色とりどりにデコレーションされたアイシングクッキー。
このカラーボックスの絵は特に自信作なんですよ、と楽しそうに話すSMP君。
「かわいいー!!SMP君相変わらず器用だね。」※

「じゃあ、お言葉に甘えてお昼ごはん食べてくるね。あ、そうだ。」
私はブレザーのポケットを探って中身を差し出す。
「カウンター結構冷えるから、使いかけで申し訳ないけどカイロ。よかったら使ってね。」
「わ・・・ありがとうございます。」
「風邪ひかないようにね!じゃっ。」
「全く・・・僕、弟だと思われてるのかなあ。」
放課後―—――—――—―
SMP君と再び図書委員のお仕事。
来月の展示企画の当番が回ってきたので、今日は2人で新しい展示の内容を考えることになっていた。
「最近歴史テーマの特集が続いてますよね?」
「そうだね。うーん、たまには違う企画もしたいなあ、あ、ねこの特集とかはどう?」
「いいですね!堅苦しくないし、猫にまつわる小説を集めても面白そうです。」
「そういえば、SMP君も秋の文化祭で猫の仮装してたよね!あれ可愛かったなあ。」
「もう!あれはクラスメイトに言われて仕方なくです!僕可愛くなんかないですからっ!」
SMP君はくるくると小さな体を回して抗議する、その様子も可愛くてつい笑ってしまう。
「あはは、ごめんごめん。」
とにかくテーマは決まりだね、と2人でPCの書籍検索を覗く。
「猫」の検索結果から良さそうな本を相談して数冊ピックアップした。
「これくらいあれば良さそうですね、書架から持ってきましょうか。」
「そうだね!私、この画集と図録取ってくるね!」
「え、いいですよ先輩!僕がやりますよ。」
「何言ってんの。SMP君ちっちゃいんだから、高いところの本届かないでしょ?」
「もー先輩、やっぱり僕のこと馬鹿にしてますぅ?」
不服そうにバネをギシギシと言わせるSMP君。
「あはは、そんなことないよ、それにあの画集重たいし、力仕事は先輩に任せなさい!」
そう言って、私は検索結果を書き取ったメモを片手に図書館の奥に進む。
(えーっと、確かこの3冊はここの棚の一番上だよね・・・ちょっと高いけど、ぎりぎり脚立を使わないで取れるかな・・・。)
背伸びして画集の背表紙に手をかけて引き抜いた瞬間、ふらっと足元のバランスを崩してしまった。
よろけた拍子に手を放してしまい、画集が本棚からずれ落ちる。
危ない、本が降ってくる!!
反射的に身を守ろうと身をかがめて手で頭をガードする。
ガシャン!
・・・・へっ?
バネが大きく軋む音に驚いて、恐る恐る見上げると、SMP君が本棚に自分自身をつっぱって、落ちそうな本をガードしていた。

「SMP・・・君???」
呆気に取られていると、SMP君は図録を軽々と抱えて降りてきた。
「先輩、ケガ、無いですか??」
周りの迷惑にならないように、私の耳元でささやく。
「えっ・・・うん・・・。」
良かった、とほっとする声。急いできたのかまだ少し息が上がっているようだ。
「え、でも、どうして・・・。」
「先輩、僕のこと勘違いしてませんか?」
「勘違い・・・?」
「確かに他のつっぱり棒より小さいけど、こう見えて耐荷重も結構あるんですよ。バネをぐっと押し込んだら、しっかりつっぱれるんです。※」

ほら、触ってみてください。とSMP君はさらに私に近づく。
恐る恐るキャップを押し込む。
ギシっ、とバネがきしむ音。
「え、強い・・・!」
「シッ!先輩、図書館では静かにね?」
SMP君にささやかれて慌てて口をふさぐ。
手のひらに感じるしっかりしたバネの反発力。こんな強くて伸縮性があったのね・・・小さなつっぱり棒なのに、強い突っ張りの力と耐荷重が実現できる訳だわ・・・。
「僕、2段バネなんで。実は意外と力持ちなんですよ?」※
「知らなかった・・・。」

やっぱり気づいてなかったんですね、と、いたずらっぽく囁くSMP君。
そのまま静かに私の背後の本棚に向かって身体をつっぱる。
これって・・・壁ドン・・・?
さっきよりもさらに近づいた耳元で、SMP君はいつもより低い声で囁いた。
「ねぇ、先輩。」
「え・・・?」
「僕・・・先輩のこと、もっと押してもいいですか?」

この心臓のドキドキは、本が落ちてきそうでびっくりしたからなのか
それとも・・・。